個性も価値観も違う多くの人が同じ場所に集まり、毎日長い時間を共に過ごすのが「学校」です。
子どもたちも、教職員たちも学校内での人間関係にストレスを抱えることが少なくありません。
スクールカウンセラーは、学校に関わるすべての人の悩みやトラブルを受け入れ、緩和してくれる存在です。
しかし、スクールカウンセラーについて詳しくは知らないという方が大半ではないでしょうか。
今回はスクールカウンセラーという職業に焦点を当て、仕事内容やなり方、将来性に至るまでをご紹介します。
目次
- スクールカウンセラーとは
- スクールカウンセラーの仕事
- スクールカウンセラーは学校の先生なの?
- スクールカウンセラーとスクールソーシャルワーカーの違い
- スクールカウンセラーになるには
- スクールカウンセラーの将来性
- スクールカウンセラーは子どもに寄り添う心の専門家
スクールカウンセラーとは
スクールカウンセラーは、学校に通う子どもたちや教職員の心のケアをする職業です。
集団生活をおこなう学校という場において、少しでも精神的負担を減らすためにと考えられました。
文部科学省の取り決めにより、1995年度から全国の公立学校にスクールカウンセラーが配置されるようになり、子どもや教職員、そして保護者の悩みに寄り添う活動をしています。
私立の学校ではそれ以前から導入が始められており、公立よりもサポート体制が整っているといえるでしょう。
学校生活の中では、自分では解決しにくい悩みも多いものです。
スクールカウンセラーに悩みを打ち明けるだけでも心が軽くなり、適切なアドバイスによってさまざまな問題を良い方向へ導いてくれます。
おもに小学校・中学校にスクールカウンセラーは配置されていますが、現在では高校にも配置の動きが広まっています。
SNSの発達などにより、学校でのトラブルが増加する中、スクールカウンセラーの需要は高まっているといえるでしょう。
スクールカウンセラーの仕事
スクールカウンセラーの仕事は、臨床心理の専門家として相談を受けるのが第一です。
学校での悩みと言っても実にさまざまで、勉強や進路についてはもちろん、いじめや人間関係に関するものや不登校についてなど多岐にわたります。
心の問題全般に対して専門知識をもって対応できるため、いざというときに相談できる存在として浸透しています。
スクールカウンセラーの仕事内容は、大きく分けて以下の通りです。
- カウンセリング
- 保護者に対するサポート
- 教職員に対するサポート
ひとつずつ見ていきましょう。
カウンセリング
まずは、カウンセリング(面談)です。
集団生活の中で生じた問題や悩みについて、児童生徒から相談を受けます。
カウンセリングの意図は、カウンセラーが話をどんどん進めるのではなく、あくまでも聞き役に徹すること。
話を聞いてもらえるだけでよいという場合から、具体的な解決策を求めにくる場合まで相談者のタイプもさまざまです。
スクールカウンセラーは丁寧に話を聞き、その内容に応じて心構えや対応方法のアドバイスをすること(コンサルテーション)で問題の早期解決を目指します。
また、事件や事故によって心に傷を負った子どものケアもスクールカウンセラーの大切な仕事です。
保護者に対するサポート
保護者もスクールカウンセラーに相談することができます。
勉強や生活面での指導、学校に行きたくない際の対応などについての相談が多くを占めます。
思春期の子どもとの向き合い方、長引く不登校に関してなど深刻な悩みが寄せられるケースも少なくありません。
相談時におけるスクールカウンセラーの経験値は、子育てに悩む親にとって心強く、自分では知り得ない情報や知識を提供してもらえる気付きの場でもあるのです。
教職員に対するサポート
不登校の子どもに対する教師の対応の仕方や、復帰する際のクラスメイトたちの迎え方などをアドバイスすることで、クラスだけでなく学校全体が過ごしやすい雰囲気になるよう働きかけています。
教職員に対してのアドバイスや必要に応じて研修をおこなうこともあります。
一例として、不登校や発達障害は今では珍しくない事象となりました。
勉強も運動もできて人気者の子でも不登校になる可能性を秘めていますし、不登校や学校での過ごしにくさの陰には発達障害が隠れている場合もあります。
これらに対して適切な知識を持ち合わせていないと、子どものささいな変化やSOSに気付けないかもしれません。
あらゆる事例について最低限の知識を持てるよう、大人に学びの場を与えるのもスクールカウンセラーの役割なのです。
スクールカウンセラーが対応できないこと
多岐にわたる対応をしているスクールカウンセラーですが、中にはできないこともあります。
対応が難しいのは主に次の3つです。
- 相談相手への診断・治療など
- 学校卒業後の対応
- 教育・育児以外に関する保護者からの相談
スクールカウンセラーの範疇は学校に関する内容であり、保護者からの相談においては、本人の心の問題や家庭内の問題などについては基本的に関わることができません。
また、学校に配属されているスクールカウンセラーは、子どもの卒業後は継続的に相談を続けていくことができません。
その場合、地域の相談機関などを紹介し、相談できる環境を継続できるように配慮しています。
学校内ではできることがどうしても限られてしまうため、地域とも連携しながら子どもたちを支えていくのがスクールカウンセラーの立ち位置です。
スクールカウンセラーは学校の先生なの?
学校内で相談できるスクールカウンセラーですが、学校の職員という扱いなのでしょうか。
各自治体の教育委員会や私立学校の募集に応募し、採用されればスクールカウンセラーとしての仕事が始まります。
その地域や学校によって異なるものの、多くの場合は週に数日、数時間の非常勤職員として自治体から学校へ派遣されるという形です。
スクールカウンセラーは臨床心理士、心理カウンセラー、精神科医などを本業とする方が多数を占めます。
規定により働ける時間に限りがあることから、いくつかの学校を掛け持ちしているケースも少なくありません。
学校にいない時間の方が多いため、子どもが「いきなり利用したくてもできない」という面があるのも現実です。
スクールカウンセラーとスクールソーシャルワーカーの違い
スクールカウンセラー(SC)とは別に、スクールソーシャルワーカー(SSW)という仕事も最近では注目されています。
似ているような2つの職種ですが、何が違うのでしょうか。
スクールカウンセラーは相談者の心のケアをおこなうプロであり、スクールソーシャルワーカーは子どもを取り巻く環境の改善をはかる福祉のプロを指します。
社会福祉士や精神保健福祉士、臨床心理士といった資格が推奨されており、どれかの資格が必須となっている場合も多いです。
不登校やいじめといった子どもを取り巻く問題に関して、スクールソーシャルワーカーは各所と連携を取りながらより積極的に問題解決に取り組んでいきます。
問題解決のために、学校や医療機関、福祉施設などの専門家同士をうまくまとめながらチームを牽引するのもスクールソーシャルワーカーの役割です。
スクールカウンセラーになるには
では、スクールカウンセラーになるにはどうしたらよいのでしょうか。
必要な資格や条件を見ていきましょう。
公認心理師か臨床心理士の資格を取得する
スクールカウンセラーになるには決められた資格が必要なわけではありません。
しかし文部科学省では、スクールカウンセラーの選考に際し、以下の通り基準を設けています。
次の各号のいずれかに該当する者から、実績も踏まえ、都道府県又は指定都市が選考し、スクールカウンセラーとして認めた者とする。
引用:「スクールカウンセラー等活用事業実施要領」.文部科学省.
公認心理師
公益財団法人日本臨床心理士資格認定協会の認定に係る臨床心理士
精神科医
児童生徒の心理に関して高度に専門的な知識及び経験を有し、学校教育法第1条に規定する大学の学長、副学長、学部長、教授、准教授、講師(常時勤務をする者に限る)又は助教の職にある者又はあった者
都道府県又は指定都市が上記の各者と同等以上の知識及び経験を有すると認めた者
https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/seitoshidou/1341500.htm
これらの基準からもわかるように、実際にスクールカウンセラーとして働いているのは、条件を満たしている場合がほとんどです。
子どもの臨床心理に関して専門的な知識と経験を持つ人材が求められています。
やる気だけ人一倍でも、無資格では残念ながらスクールカウンセラーになれる可能性は限りなく低いといえます。
そのため、スクールカウンセラーを目指すには、公認心理師か臨床心理士の資格を取得しておくのがおすすめです。
心理学を学べる学校を選ぶ
公認心理師や臨床心理士の資格を取るには、心理学を専門的に学べる大学や大学院で勉強した後、試験に合格する必要があります。
専門的な学びが得られるか、目標とする資格が取れるか、実習などサポート体制が充実しているかなど、よく調べてから学校を決めるようにしましょう。
他にも、スクールカウンセラーとして活躍するために役立つ資格を知っておくと将来の選択の幅が広がります。
心理学の中でも、子どもに特化した資格や専門知識を身につけておくのがおすすめです。
- チャイルドカウンセラー資格
- メンタル心理カウンセラー資格
- 不登校訪問支援カウンセラー資格 など
専門分野を自分の強みとできるよう、プラスアルファの資格取得にもチャレンジしてみてはどうでしょうか。
スクールカウンセラーの将来性
児童生徒数の減少が見られる一方で、不登校やいじめの件数は増加傾向にあるのが問題のひとつです。
ヤングケアラーなどの問題とも向き合っていかなくてはなりません。
今後の課題としては、スクールカウンセラーの役割や配置の見直し、体制の強化などが挙げられます。
「すぐに相談したいのに、来週まで待てない」
「接する機会が少なすぎて、話しに行くのに抵抗がある」
このように、せっかくのスクールカウンセラーへの相談機会が失われている可能性もあります。
子どもにとっては、よりコンスタントに相談できる環境の方がよいはずです。
その点でも、スクールカウンセラーの増員や常駐化など、心理職の働く場所は今後伸びていくことが期待できます。
スクールカウンセラーは子どもに寄り添う心の専門家
さまざまな人が集まる学校では、大人も子どもも悩みを抱えながら毎日を過ごしています。
家族にも先生にも打ち明けられない悩みを相談できる場所がスクールカウンセラーであり、相談者の心の支えです。
スクールカウンセラーの必要性は年々高まっており、高校や特別支援学級への配置も進んでいます。
現在は非常勤扱いですが、今後は働き方が変わっていくことも考えられるでしょう。
まずは相談する立場として、自分の身近なスクールカウンセラーについて調べてみるのを
おすすめします。
まだ利用したことがない場合は、実際にカウンセリングを通して自分の思いを伝えてみるのもよい経験となるでしょう。
これからの子どもたちが学校で自分らしく過ごしていくためにも、専門的な立場から心のケアができるスクールカウンセラーを将来の目標のひとつにしてみてはどうでしょうか。