万が一、自分の子どもがいじめを受けていることを告白したら、保護者としてどのように対応すればいいのでしょうか。近年、多くの自治体や学校でいじめ問題が取り上げられるようになり、いたたまれない悲惨な結末を迎えてしまっているケースも珍しくありません。
国は学校に対していじめの対応マニュアルを配布していますが、学校に頼りきりになるのではなく、子どもと保護者でいじめに対する適切な対処をする必要があります。学校の先生も人なので、残念ながら全てのいじめに気付くことはできません。
今回は、子どもと保護者ができる、いじめの適切な対処法について解説します。子どもの皆さんは最悪の事態にしないために、保護者の方々は子どもを守るために、ぜひ参考にしてください。
目次
- いじめの対処法に正解はない
- いじめの発生件数
- 子どもができるいじめの対処法は大人に相談すること
- 子どもが親にいじめられている事実を伝えない理由
- 子どもからいじめの報告を受けた親が取るべき対処法・向き合い方
- いじめに遭わないようにするための方法
- まとめ
いじめの対処法に正解はない
本記事を読み進めていただく前に理解しておいていただきたいのは、全てのいじめに効果がある万能の対処法というものは存在しないということです。ひと口にいじめと言っても、人それぞれ原因や受けているいじめの内容が異なります。そうなれば対処法は異なりますし、すべての対処法を網羅することは不可能です。
当然、目指すべきゴールがいじめの解消である点は同じです。しかし、いじめの原因や実態が多様化している以上、この方法なら根本的に解決できるというものはありません。
いじめに対しては親と子どもが一緒になって解決に向けて動き出すことが重要です。「子どもが自力で解決するのが望ましい」「保護者が代わりに解決に乗り出すのが正解」なのではなく、親と子どもが協力し合っていじめに立ち向かうことが大切であると思ってください。
いじめの発生件数
文部科学省が令和4年に発表した「いじめの状況及び文部科学省の取り組みについて」の資料によると、令和3年度のいじめの認知件数は、小学校~高校までの件数を合わせて615,351件に上ることが報告されています。この点数は過去最多であり、問題が深刻化している状況が伺えます。
(引用:文部科学省「いじめの状況及び文部科学省の取り組みについて」)
すでに解消しているとしたものが全体の80%以上です。しかし、この件数はあくまでも学校側が認知したいじめの件数のみであり、水面下では さらに多くのいじめが発生しているのではないかとする専門家もいます。
学年別に見ると、次のような数字となりました。
(引用:文部科学省「いじめの状況及び文部科学省の取り組みについて」)
令和2年度の認知件数が減少している一方で、最新版となる令和3年度の認知件数はほとんどの学年で最多を記録しています。このうち「いじめ防止対策推進法」第28条1項に規程されている重大事態の発生件数は705件となっており、令和元年度の数字に次ぐ2番目に高い数字となりました。
(引用:文部科学省「いじめの状況及び文部科学省の取り組みについて」)
国や地方自治体は、いじめの撲滅を目的に、ガイドラインの作成・配布や啓発運動を盛んに行っています。しかし、実際には成果が出ているとは言い難い状況です。いじめの被害者になってしまった時、どのように対処すればいいのかについては、全員が知っておく必要があると言えるでしょう。
子どもができるいじめの対処法は大人に相談すること
クラスメイトや先輩たちからいじめを受けた場合、子どもができることは周囲の大人に相談することだけです。年齢や学年にもよるかもしれませんが、いじめを子供たちの力だけで解決するのは不可能と言っていいでしょう。場合によってはこじれてしまい、より大きなトラブルに発展する可能性もあります。
周囲の大人とは、保護者や学校の先生のことを主に指します。国や自治体が設けている相談窓口に相談するのもひとつの方法ですが、とにかく誰かに相談することです。あなたがSOSを発することで、周囲の大人があなたがいじめられている事実を認知できます。
一人で抱え込んでいても解決には結びつきません。一人で解決することもできなくなないかもしれませんが、現実的にかなり難しいでしょう。いじめられていると感じたら、早い段階で周囲の信頼できる大人に相談するようにしてください。
子どもが親にいじめられている事実を伝えない理由
子どもは周囲の大人に相談しなければ、いじめを解決する具体的な対処法にたどり着けないことがほとんどです。しかし、多くの子どもはいじめを告白しない傾向にあるようです。その理由はいくつかありますが、代表的なものは以下の4つと言われています。
- 親に心配してほしくない
- 恥ずかしい気持ちが先行してしまう
- いじめを認めたくない心理が働いている
- いじめがエスカレートしないか心配で相談できない
いじめの相談を受けたら「なんで早く言わないの」と叱らず、まずは告白できたことを認めてあげましょう。いじめからわが子を守るためには、告白しなかったことを責めるのではなく、認めてあげることが優先です。
親に心配してほしくない
親に無用な心配をしてほしくないという心理が働いた結果、いじめを打ち明けられない子どもは少なくありません。いじめを打ち明けられて嬉しい親はどこにもいないはずですし、むしろ心配をかけてしまうのではないかと考えるのは自然なことです。
もしかすると、親が忙しそうでこれ以上自分のことに構ってもらうのも気が引けると思って打ち明けない子どももいるでしょう。しかし、打ち明ければ解決できる可能性もあることを忘れてはいけません。
親として、いじめの告白をされて心配しないことはまずないでしょう。「心配をかけたくない」という気持ちはわかりますが、告白しなければ解決しないのも事実です。申し訳ない気持ちにならないのは難しいかもしれませんが、気負いすぎて自分を追い詰めてしまう前に相談するようにしてください。
恥ずかしい気持ちが先行してしまう
ご家庭の教育方針にもよりますが、恥ずかしい気持ちが先行していじめを告白できない子どももいます。「いじめられるのは自分にも非がある」「落ちこぼれている自分が悪い」と思ってしまうと、いじめの事実を打ち明けられなくなります。
いじめには多くの原因があるため、相談する側が100%悪くないとは言い切れない側面があるのは事実です。しかし、それが原因で学校に行くのがつらかったり、人と会うのが怖くなってしまったりしては本末転倒です。
自分が悪いかどうかの判断はいったん脇に置き、いじめを受けている事実を親に伝えなければ、いつまでたってもいじめは解決しません。いじめがエスカレートしないためにも、恥ずかしい気持ちをぐっと抑えて打ち明ける勇気が必要です。
いじめを認めたくない心理が働いている
子ども自身がいじめを認めたくないと思っていると、周囲の大人に相談できません。本人がいじめられていると思いたくないと感じている以上、大人に相談する機会もないので、ある意味当然の結果です。
しかし、いじめを認めないままでいると、ある日それが爆発してしまうこともあります。その結果、学校に行けなくなったり、周囲の大人も信頼できなくなってしまうかもしれません。自分の中に負の感情を貯めこんでいても良いことはありません。
いじめをいじめと認識した時点で、素直に周囲の大人に打ち明けるようにしてください。仲が良いと思っていた友人からいじめを受けている時は受け入れたくない気持ちになるかもしれませんが、自分が我慢しても良いことはありません。爆発してしまう前に、周囲の大人に相談しましょう。
いじめがエスカレートしないか心配で相談できない
いじめを告白しても、裏でさらにいじめがエスカレートする恐れから相談できない子どももいます。残念ながら、学校の先生に相談したところ加害者から逆恨みされ、いじめがエスカレートしたケースも存在しています。
また、大前提として親にいじめを相談しても良いのか判断ができない子どもがいるのも事実です。学校には直接関与していない親に相談しても、良い方向でいじめが解決できるのか懐疑的だからです。
気持ちはわからなくはありませんが、まずは周囲の大人に相談しなければ何も始まりません。エスカレートしたらどうしようと思うのは無理もないことです。ですが、相談しなければしなかった分、悪い方向に進んでしまう可能性があることも忘れてはいけません。
子どもからいじめの報告を受けた親が取るべき対処法・向き合い方
子どもからいじめの報告を受けた時、親はどのように対処するのが良いのでしょうか?学校や加害者に詰めよってしまいそうになるかもしれませんが、これらは得策ではありません。いじめを打ち明けたわが子の思いを受け止めつつ、詳細をヒアリングすることが何よりも重要です。
報告を受けた時の保護者の対処法と向き合い方を詳しく見ていきましょう。
先走らずに子どもの意思を尊重する
わが子がいじめを受けていると知って頭に血が上ってしまうのも、ある意味仕方がないことかもしれません。しかし、いじめの問題は親の問題ではなく子ども主体の問題です。親が先走って解決に動こうとせず、子どもに確認を取って動くようにしましょう。
親が良かれと思って実行しようとしている解決策は、もしかすると子どもが望んでいる対処法ではないかもしれません。子どもには子どもの立場や気持ち、環境があることを忘れず、子どもを尊重した対処法を取ることが重要です。
とはいえ、子どもを見放していいわけではありません。いじめられている事実は変わらないので、それに親として寄り添ってあげることが大切です。いつまでも子どもの味方でいることが、子どもが自ら自信を取り戻せるでしょう。
子どもの居場所を作る・提供する
子どもが安心できる場所を作ったり、提供したりすることが、親ができる重要な対処法です。いじめによって学校内に居場所がなくなっていたとしても、家に帰ると安心できるようにすると、子どもの心理に余裕ができるでしょう。
安心できる場所は子どもによって違うので、必ずしも家庭である必要はありません。子どもが安心できる環境であれば、習い事でも祖父母の家でも大丈夫です。子どもにとって心の余裕が生まれる場所を用意してあげるようにしましょう。
いじめに立ち向かう決意をする
子どもがいじめられているという事実を認識でき、なおかつ子どもが解決したいと思っているのであればそれに立ち向かう決意が必要です。
そうはいっても加害者やその保護者と敵対したり、過度な被害者意識を持ったりするのはよくありません。「やられたらやり返す」のではなく、話し合いで解決するようにしてください。
話し合いは時間がかかりますし、時に相手や学校と衝突することもあるかもしれません。いじめの内容や加害者・学校の態度によって進捗は大きく変わりますが、それに真正面から対応するという決意が必要です。
いじめの記録を詳細に残す
親と子の決心が固まれば、いじめを受けているという事実を加害者と学校に報告しなければなりません。そのためには、子どもが受けていたいじめの内容を詳細に書き起こす必要があります。
集めるものはいじめを受けていると分かる証拠やその内容、周囲にいたクラスメイトやその保護者からの証言などです。証拠は壊された持ち物や落書き、日記などが該当します。証言だけでは証拠が不十分であり、いじめとして認めてもらえない可能性があるためです。
近年問題となっているSNSなども、スクリーンショットなどで保存しておくことをおすすめします。「言った」「言わない」の水掛け論にならないためにも、証拠を積み上げていくことが重要です。
これらの証拠は、後述する学校への記録提出以外では、警察への被害届提出時の資料としても使用できます。いじめの中には犯罪に当たるものもあり、裁判までもつれる可能性があるケースも存在します。裁判になってから証拠を集めていては遅いので、いじめを受けているという告白があれば、その時点で証拠集めをはじめましょう。
いじめに遭わないようにするための方法
いじめの原因は様々であるため、この方法なら必ずいじめが発生しないという対処法はありません。しかし、少しでもいじめに遭わないようにする方法はあります。
中には最終手段のようなものもありますが、万が一わが子がいじめに遭った時の対処法として覚えておきましょう。
相談できる環境を整える
本記事を通してお伝えしてきましたが、子どもがいつでも相談できる環境を整えておくことが重要です。いじめを受けた・受けなかったに関わらず、子どもの悩みや愚痴に耳を傾けられる場所を作っておくと、いち早くいじめの兆候を察知できるでしょう。
子どものほうは、親や周囲の大人に「相談しても良い」と言われても恥ずかしさや心配をかけたくない気持ちから相談できないままにしてしまうことも珍しくありません。それらをなくすためには、大人が相談しやすい環境を整えることが大切なのです。
改まった場や時間を設ける必要はありません。食事や就寝前など、普段から子どもとコミュニケーションを取る雰囲気を作っておけば、おのずと話してくれる環境が出来上がることでしょう。
転校して環境を変える
話し合いでは解決しなさそうな場合は、転校も視野に入れましょう。転校は大きな決断であるため、なかなか踏み切れないと言う人もいるでしょう。いじめられていたとしても、仲のいい友人がいたりすると今の環境から離れにくいと感じるのは無理もありません。
しかし、そのまま今の環境でいてもいじめが収まらなければ、あなたの心が休まることもないでしょう。いじめから解放されるためには、環境を大きく変えてしまうことも大切なことなのです。
あるいは進学を期に、私立の学校に進むのも良いかもしれません。特に中学から高校に進学する時は、現在の環境を手放せる大きなチャンスです。親子で相談して、進学先を通信制や定時制にしたり、少し離れた高校に進学したりするようにすると良いでしょう。
まとめ
いじめに対する対処法は様々で、一筋縄では解決しないのが現状です。時間と労力をかけて相手と話し合いをしなければなりませんし、子どもの同意や親の決意も必要です。しかし、そのままにしておいても良いことはありません。いじめを認知したら、本記事で紹介した対処法で相手や学校に解決を求めることを優先してください。
いじめられる方にも原因があるとは言うものの、最終的には受けているほうが心の負担を負うことになるでしょう。少しでも心の負担を軽くするためにも、事象を解決できる方法を考えていきましょう。