保護者が子どもから「学校に行きたくない」と聞いた瞬間、心に寒風が吹くかのような感覚に襲われるかもしれません。この一言がきっかけで不登校へと進むことも少なくありません。子どもたち一人一人が抱える不登校の背景には、さまざまな理由が存在します。文部科学省によれば、不登校にはいくつかのタイプがあり、それぞれの特徴や対応のポイントが異なります。
本記事では、日本の不登校の現状を分析した後に、文部科学省の分類を参考に不登校の主たる要因を詳しく解説し、各要因ごとに保護者がとるべき対応を提案します。
不登校の定義
「学校を休む日が増えている子どもは、不登校に該当するのでしょうか?」また、「不登校の具体的な定義とは何か」と疑問に思う保護者の方々も多いかもしれません。
文部科学省(不登校の現状に関する認識)によると、不登校とは「学年中に連続、または断続的に30日以上学校を休んでいる児童や生徒」、「心理的、情緒的、身体的、社会的な理由や背景により学校への通学が困難である児童や生徒」(病気や経済的理由は除く)と定義されています。お子様が30日以上の長期にわたって学校を欠席している場合は、不登校と認識されるため、その背景にある問題を理解し、適切なサポートを考慮することが必要です。
「不登校」という用語と密接に関連して使われることがある「ひきこもり」という状態は、「6ヶ月以上、仕事や学校に通わず、家族以外との社会的な交流がほとんどない状態」と定義されています。不登校が深刻化すると、友人や親戚との接触を避け、ひきこもりに至ることもありますので、子どもの状況には注意深く対応する必要があります。
日本の不登校の現状
不登校の生徒数・割合の分析
令和4年度 児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果について
図1
図2
図1は文部科学省により発行されている、令和4年度 児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果についてより引用した、不登校児童生徒数の推移のグラフです。
日本の不登校状態にある児童生徒数は10年連続で増加しており、令和4年度の調査では過去最多人数が不登校の状態にあると記録されました。
令和2年から4年(2020年~2022年)で爆発的に不登校の生徒数が増加していることが分かるかと思います。小中学校における不登校生の割合は32人に1人と、1クラスに1人はいる計算になります。
不登校生の割合を30年前と比較すると、小学校で0.2%から3.2%と、16倍に、中学校で1%から6.0%と6倍に増えていることが分かります。
コロナ禍による一斉休校など生活環境の変化で、多くの子どもが心身に不調をきたしたことが大きな要因と言われています。
不登校になったきっかけ
同調査によると、不登校になったきっかけは以下の表のようになっています。
不登校になったきっかけ(2022年度) | |||||||
区分 | 小学校 | 中学校 | 高校 | ||||
人数 | 割合 | 人数 | 割合 | 人数 | 割合 | ||
学校に係る状況 | |||||||
いじめ | 318 | 0.3% | 356 | 0.2% | 124 | 0.2% | |
いじめを除く友人関係をめぐる問題 | 6,912 | 6.6% | 20,598 | 10.6% | 5,576 | 9.2% | |
教師との関係をめぐる問題 | 1,901 | 1.8% | 1,706 | 0.9% | 286 | 0.5% | |
学業不振 | 3,376 | 3.2% | 11,169 | 5.8% | 3,416 | 5.6% | |
進路に係る不安 | 277 | 0.3% | 1,837 | 0.9% | 2,489 | 4.1% | |
クラブ活動、部活動への不適応 | 30 | 0.0% | 839 | 0.4% | 492 | 0.8% | |
学校のきまり等をめぐる問題 | 786 | 0.7% | 1,315 | 0.7% | 514 | 0.8% | |
入学、転編入学、進級時の不適応 | 1,914 | 1.8% | 7,389 | 3.8% | 5,070 | 8.4% | |
家庭に係る状況 | |||||||
家庭の生活環境の急激な変化 | 3,379 | 3.2% | 4,343 | 2.2% | 1,080 | 1.8% | |
親子の関わり方 | 12,746 | 12.1% | 9,441 | 4.9% | 1,703 | 2.8% | |
家庭内の不和 | 1,599 | 1.5% | 3,232 | 1.7% | 1,093 | 1.8% | |
本人に係る状況 | |||||||
生活リズムの乱れ、あそび、非行 | 13,209 | 12.6% | 20,790 | 10.7% | 9,651 | 15.9% | |
無気力,不安 | 53,472 | 50.9% | 101,300 | 52.2% | 24,223 | 40.0% | |
左記に該当なし | 5,193 | 4.9% | 9,621 | 5.0% | 4,858 | 8.0% |
不登校になるきっかけとして、およそ半分が無気力や不安によるものということがわかります。また、小学生の親子のかかわり方が、中学生・高校生と比べて多くなっていることも注目するべきポイントかもしれません。
不登校の主な要因
不登校の原因を先ほど簡単に分析しましたが、同調査書には、不登校の要因を細分化して分析しています。
【小中学校の不登校の要因】
不登校の理由 | 人数 | 不登校児童生徒に占める割合 |
無気力・不安 | 154,772人 | 51.8% |
生活リズムの乱れ、あそび、非行 | 33,999人 | 11.4% |
いじめを除く友人関係をめぐる問題 | 27,510人 | 9.2% |
親子の関わり方 | 22,187人 | 7.4% |
該当なし | 14,814人 | 5.0% |
【高校の不登校の要因】
不登校の理由 | 人数 | 不登校児童生徒に占める割合 |
無気力・不安 | 24,233人 | 40.0% |
生活リズムの乱れ、あそび、非行 | 9,651人 | 15.9% |
いじめを除く友人関係をめぐる問題 | 5,576人 | 9.2% |
親子の関わり方 | 5,070人 | 8.4% |
該当なし | 4,858人 | 8.0% |
無気力・不安
「無気力・不安」は、小中学校では全不登校生徒の半数を占め、高校においても40%に上るというデータとなりました。
「無気力・不安」型のお子様の中には、学校を休むことに対して罪悪感を感じないケースも見受けられます。特定のイベントや友人の誘いがあれば登校できることもあり、家庭では普段通り活動的であるため、学校への出席を拒む具体的な原因を突き止めるのが難しいことがあります。子ども自身もその理由が分からない場合が多く、原因究明のプロセスが家族にとって辛い体験になることもあるのです。
大人になって振り返っても、「どうして当時学校に行けなかったのか」の理由が明確でないという経験者もいます。保護者の方々が不登校の理由を必死で追い求めることもあるかもしれませんが、理由がはっきりしないことも珍しくないと認識していただけると、子どもに対する理解が深まるかもしれません。
「無気力・不安」型は「どう対応すればよいか」が見えにくい特徴もあります。家庭内だけで解決しようとすると、家族間の関係が悪化する恐れがあるほか、閉じた環境での問題が長期化し、すべての家族が立ち往生する可能性もあります。こうした状況を避けるためにも、客観的な視点で問題を見つめ直すために、専門家の支援を求めることが一つの手段です。
学校生活への意欲を持続させるのが困難な場合、地域の教育支援センターや通信制高校、フリースクールなど、学校外の学習環境を活用する選択肢もあります。こうした教育機関では、子どもたちのペースに合わせた学習が可能で、自分を無理に周囲に合わせることなく学ぶことができます。保護者の方は、専門家の意見を聞きながら、お子様一人一人に合った最善の選択を考えてみてはいかがでしょうか。
生活リズムの乱れ、あそび、非行
2番目に多い不登校の要因が、「生活リズムの乱れ、あそび、非行」です。家庭の状況が思わしくなかったり、学校に適切な居場所を見つけられなかったりすると、子どもたちは認められたい、大切に扱われたいという欲求から、時に問題行動を起こすグループに流れ込むことがあります。このようなグループでの遊びや非行行為が、彼らにとっての居場所となり、結果的に不登校に至ることも少なくありません。居場所の欠如と非行行為の問題は、子どもたちを取り巻く社会問題のひとつとして、以前から注目されています。
不登校となる子どもたちに対しては、まずは親子でしっかりと対話を重ねることが大切です。子どもがどのような思いを抱え、何に対して不満を感じているのかを理解し、互いの信頼関係を築くことが重要になります。家庭内だけで問題解決が難しい場合は、孤立せずに地域の支援機関へ相談し、適切なサポートを得ながら問題に向き合うことが推奨されます。
いじめを除く友人関係をめぐる問題
友人関係の要因も3番目に多い結果となりました。友人関係に関する問題を改善するためには、まず家庭で子供が安心して自分の気持ちや悩みを話せる環境を整えることが大切です。親や家族とのコミュニケーションが円滑であり、子供が信頼できる存在として感じられるようにすることが重要です。子供が心を開きやすい環境を作るためには、日常的に会話を促し、子供の意見や感情を尊重する姿勢が求められます。
また、子供の言動や態度から何かしらの問題を察知した場合、ただちに学校との連携を図ることが重要です。学校での子供の振る舞いや関係性を把握し、必要な支援や対策を提供することで、子供がトラブルに巻き込まれるリスクを軽減することができます。
結果的に、家庭と学校が連携し、子供の安全と健やかな成長をサポートする体制が整い、友人関係に関する問題をより効果的に解決できるでしょう。
親子の関わり方
親との関係も、不登校の要因の上位に位置する結果となりました。細分化すると以下のような要因になるかと思います。
1. 過干渉や期待のプレッシャー: 親が過度に子どもの生活や学業に干渉し、高い期待をかけることで、子どもが重圧を感じ、学校に行くことが負担になることがあります。
2. コミュニケーション不足: 忙しい日常の中で、親子間の十分なコミュニケーションが取れていない場合、子どもは孤独を感じたり、理解されていないと感じたりすることがあります。
親子の関わり方が原因で生じる不登校の問題は複雑で、その解決には家族全員の努力と理解が必要です。家族それぞれがお互いの立場を尊重し、支え合いながら問題に取り組むことが、不登校児童・生徒の心身の健康と学校復帰の大きな支えになるでしょう。
まとめ
本記事では、日本の不登校の現状について分析し、その要因ごとの簡単な解決策を紹介してきました。
お子様が学校に行けなくなると、最も身近な支えとなるのは家族です。この時、家族の対応の仕方は極めて重要になります。不登校は、お子様だけでなく保護者にとっても大きな不安の原因となりますが、お子様一人一人に合わせた対応を模索し、それぞれのペースで適切な進路や生活のリズムを見つけることができます。学校へ戻ることがベストな選択である子どももいれば、他の学習環境や生活様式が適している子どももいます。
家族がお子様に合ったサポート方法を見つけるためには、不登校には様々な原因があることを認識し、今回ご紹介した情報を含め、さまざまな角度からのアプローチを検討することが助けになるかと思います。