「外へ出られない」
「仕事をして収入を得ないと生きられない」
「うまく人間関係を築けず、仕事をするのも難しい」
引きこもり状態にあると、このような不安を抱え込んでいることでしょう。
学校へ通ったり、アルバイトや正社員として働けるようになったりすれば、一般的には引きこもりから脱出し、社会復帰できたと考えられます。
そして、他者と人間関係を構築しながら自分の力で生活をしていくことが理想的です。
しかし、引きこもり生活が長く続くと、なかなか社会復帰できないのが実情ではないでしょうか。
この記事では、引きこもりから脱出する方法について、そして行動を起こすきっかけ作りについて解説します。
今の状態から一歩踏み出したい方は、ぜひ参考にしてください。
目次
引きこもりとは?
「引きこもり」とは、どのような状態を指すのでしょうか。
<厚生労働省では次のように定義されています>
“様々な要因の結果として社会的参加(就学、就労、家庭外での交遊など)を回避し、原則的には6ヵ月以上にわたって概ね家庭にとどまり続けている状態を指す現象概念(他者と交わらない形での外出をしていてもよい)”
引用:「ひきこもり支援施策について」.厚生労働省社会・援護局 地域福祉課.2022-06-10
https://www.mhlw.go.jp/content/12602000/000953319.pdf
他者との関わる外出を避け、期間としては6ヶ月以上家庭にこもるような状況が、引きこもりと言われるようです。
- 傷つきやすい
- 自分に自信がない
- いらだちや焦りがある
- 周りの人に対して不信感がある
引きこもりの子どもの心理状態は、このような特徴があります。
自信がある人は、自分の言動が他人にどう思われようと気にしない傾向があります。
一方で、引きこもりの人は自信がどんどん失われ、過度に周囲の目を気にする傾向にあります。
「引きこもり状態にある今の自分を見られたくない」という思いが強くなり、引きこもりの長期化につながる可能性があるのです。
近年の引きこもりの現状
2015年におこなわれた内閣府の調査によると、15~39歳における引きこもりの推定人数は、541,000人です。
男女の割合で言うと、広義の引きこもり群に該当する6割以上が男性でした。
調査対象者 | 有効回答数 |
15~39歳 | 3,115人 |
該当人数 | 有効回収数に占める割合 | 全国の推計数 | ||
準引きこもり群 | ふだんは家にいるが、自分の趣味に関する用事のときだけ外出する | 33人 | 1.06% | 365,000人 |
狭義の引きこもり群 | ふだんは家にいるが、近所のコンビニなどには出かける | 11人 | 0.35% | 121,000人 |
自室からは出るが、家からは出ない、又は自室からほとんど出ない | 5人 | 0.16% | 55,000人 | |
広義の引きこもり群 | 計 | 49人 | 1.57% | 541,000人 |
https://www8.cao.go.jp/youth/kenkyu/hikikomori/h27/pdf-index.html
引きこもりはその人数だけでなく、数年〜十数年継続する可能性があるという面でも大きな問題といえます。
割合は低いものの、「自室からほとんど出ない」という答えも一定数見られるのが現実です。
引きこもりを脱出している人の現状
引きこもりから脱出できる人の特徴としては次の3つが挙げられます。
- 引きこもりをやめて社会復帰したいという気持ちが強い
- 1人で何でも解決しようとせず、周りに相談できる
- 問題を先送りせず、解決のために最初の一歩を踏み出せる
引きこもりは1年以内に解決するような短期的な問題ではなく、数年あるいは10年以上の年月を費やしている人も少なくありません。
しかし、学生時代から長く引きこもりを経験した場合でも、その後自分に合う仕事を見つけ、働きながら自立を成し遂げているケースが数多く存在します。
雇用形態は、正社員はもちろん契約社員や派遣社員、アルバイト、障害者雇用などさまざまですが、良好な職場環境で働くことは自己肯定感の向上につながるでしょう。
使えるお金が増えることで前向きな目標が生まれるきっかけにもなります。
ひとつの仕事を長く続けることだけを良しと考えず、場合によっては職場を変え、ステップアップを繰り返しながら社会で過ごしていくのも悪くありません。
家族や周囲も「こうでなくてはならない」と押しつけることなく、柔軟な考え方でサポートしていくとよいでしょう。
引きこもりを脱出できない理由
「考え方ひとつで引きこもりから脱出できるのでは?」と思うかもしれませんが、実際は根深く引っかかっているものがあるため、自分の力ではどうにもならないのが長期の引きこもりです。
引きこもり状態からなかなか脱出できないのには、次の3つの理由が考えられます。
体調不良や病気
引きこもりの背景には病気が隠されているケースが少なくありません。
- うつ
- パニック障害
- 適応障害
- 強迫性障害
- 不安障害
- 自律神経失調症
これらの疾患があると、ささいなことでも傷つきやすかったり、円滑な人間関係が難しかったりする可能性があります。
症状が出ていない、問題なく過ごせているときでも何かのきっかけで再発し、引きこもりに逆戻りしてしまうこともあり、注意が必要です。
対人関係の問題
外の社会と自分とを遮断してしまう引きこもりでは、対人関係は重要な要素のひとつです。
学校生活で気の合う友人ができなかった、クラスで孤立した、いじめられていたという経験があると、他者とのコミュニケーション自体が怖くなってしまいます。
本来、ストレスの要因を取り除けるよう環境を変えられればよいのですが、対人関係でトラブルを抱えていた場合はそれだけでは解決しません。
自信をなくしている状態にあるため、なかなか行動を起こせずに引きこもりが長期化する傾向があります。
失敗や挫折のトラウマ
誰でも失敗や挫折を経験したことがあるでしょう。
どんな分野だとしても、失敗の経験を糧に学びを得てモチベーションを高め、再度挑戦していくのが理想的です。
しかし、プライドが高かったり過去に大きな挫折経験がなかったりすると、自分の失敗を受け入れられずトラウマとなってしまうことがあります。
中には退学した経験なども、知られたくない事象として抱え込んでいるかもしれません。
その結果、次の行動が怖くなり、引きこもりからもなかなか抜け出せなくなってしまいます。
引きこもりのきっかけとは?
引きこもり状態となったきっかけは、いったいどんなことなのでしょうか。
内閣府が2015年に実施した調査では、15~39歳が引きこもりの状態になったきっかけとして、「不登校」「職場になじめなかった」という回答が多く見受けられました。
次いで、「就職活動がうまくいかなかった」「人間関係がうまくいかなかった」「病気」と続きます。
【引きこもりのきっかけ】
社会に出て精神的にも経済的にも自立していくためには、人との関わりを無視できません。
学校と職場という場所は違うものの、人間関係でのストレスや苦悩が引きこもりのきっかけとなることが多いと考えられます。
引きこもりのきっかけは人それぞれですが、統計をもとに上位の理由について順に見ていきましょう。
不登校(小学校・中学校・高校)
不登校が長期化した結果、引きこもりに発展したというケースが多く見受けられます。
不登校になる児童・生徒は年々増加しており、今や珍しい問題ではありません。
その原因は、学校によるもの・家庭環境によるもの・本人によるものなどさまざまです。
不登校は「学校に行きたくない」という気持ちが前面に出ているため、学校での人間関係や学業が原因の場合は、通信制高校への転校などの環境変化で改善することがあります。
残念ながら引きこもりに発展してしまった際は、焦らず支援機関を頼りながら、よりよい道を探していくとよいでしょう。
職場に馴染めなかった
引きこもりになったきっかけとして、「職場に馴染めなかった」という答えが多かったように、仕事の問題は引きこもりと関係性が強いと考えられます。
好きな仕事内容であっても、職場の雰囲気に馴染めなければストレスが増え、結果として仕事に行くのが苦痛になってしまいます。
就職活動がうまくいかなかった
自分なりに一生懸命就職活動をしても、思うように仕事が決まらないということもあるでしょう。
その挫折から立ち直れず、引きこもりになってしまうことがあります。
仕事関係での失敗に関しては、就労支援サービスを利用することで解決できるかもしれません。
自分の適性を把握し、仕事体験などを通して小さな成功体験を積み上げていくようにしましょう。
人間関係がうまくいかなかった
友達とのケンカ、先生との相性の悪さ、いじめ、孤立など人間関係でのトラブルは精神的に大きな負荷となります。
他者との関わりの中で、自分が頑張ってもどうにもならなかったという経験は自信喪失につながり、引きこもりの要因となっています。
学校でも職場でも人間関係は切り離せないため、自信を取り戻すための対応が必要です。
病気
適応障害や不安障害といった精神障害がきっかけとなって引きこもりが始まる場合があります。
「引きこもりは本人の甘えだ」「気持ちの問題である」と決めつけずに、精神科に相談した方がよりスムーズな解決につながる場合もあると覚えておきましょう。
引きこもりを脱出するきっかけ作り
引きこもりを脱出するには、何らかのきっかけが必要です。
現状を打開したいと頭では考えていても、行動を起こさなければ残念ながら何も変わりません。
仮に子どもがやる気を見せたとしても、急に学校へ行ったり働いたりするのは、引きこもりを続けている心身にとって大きな負担がかかります。
すぐに引きこもりに戻ってしまう、あるいは体調を崩してしまう危険性もあるため、少しずつ慣らしていくつもりで行動を起こしましょう。
環境の変化
環境の変化が引きこもり状態からの脱出のきっかけとなることがあります。
例えば、長く引きこもりを続けていると、同居する親の援助なしでは生活全般が成り立たないとわかるはずです。
親の退職あるいは病気というタイミングは、自力での収入がない子どもの将来に大きな不安をもたらします。
その経済的な不安から、引きこもり脱出の一歩を踏み出せることがあるのです。
また、友人や兄弟の1人暮らしや出世、結婚など大きな環境変化に触れたとき、「自分もこうなりたい」と強い意志を持てる場合があります。
親から子供へ支援する
子どもの引きこもり脱出のために親ができること、それは「寄り添ってサポートすること」です。
具体的には次の4つのステップを意識してみましょう。
- 子どもと向き合い、じっくり話を聞く
- 親子で一緒に行動を起こしてみる(買い物・掃除・料理・求人検索など)
- 社会復帰を進める
- 子どもの見守り・サポートを継続する
学校生活を同じように送ってきたと思っても、親の時代と子どもの時代は違います。
同時に、価値観も大きく異なります。
親の思いや価値観を語っても、子どもにとって解決策とはならないのが現実です。
親の価値観を正しいとして子どもに押しつけずに言動を見直し、子どもの思いを正面から受け止めるのが親にとっての最初の壁といえるでしょう。
行動を起こす際はあえて目標を定めずに、「とりあえず」の軽い気持ちで踏み出すのがポイントです。
この小さな行動の積み重ねが、社会復帰へのはずみとなります。
うまく社会復帰できても、挫折してしまうことがあるでしょう。
その際に子どもが再び自信を取り戻せるよう、継続的にサポートしていきます。
いずれにしても焦りは禁物です。
長い目で見守り、年単位でのステップアップを目指していきましょう。
最初の一歩からうまくいかず難しいと感じるかもしれませんが、親が子どもに寄り添うことで見えてくるものがあるはずです。
第三者からの支援を受ける
「子どもにどう接するべきかわからない」
「自分の言い方で子どもを刺激してしまうかもしれない」
「なかなか自分の価値観を変えられない」
普段子どもの一番近くにいる親でも、うまく対応できずに悩む方が多くいます。
そんなときに試してほしいのが、第三者からの支援です。
引きこもりに対しての知識と経験を持った第三者の介入は、子どもの環境を変えるきっかけともなります。
引きこもりを脱出する方法とは?
引きこもりを脱出するにはどうしたらよいのでしょうか。
まずは、本人や家族が行動を起こすことです。
家庭で最初にできることとして意識したいのは次の2つです。
- 生活リズムを整える
- 毎朝身だしなみを整える
生活リズムは、夜更かしせずに寝ることで、翌朝決まった時間に起きるという習慣をつけていきます。
そして、外出する気がなくても着替え、人に会えるように身支度を整えておきます。
部屋着のままで一日過ごすのとは違い、気が引き締まるのを感じられるはずです。
朝起きて身支度をするなんて当たり前のように感じますが、強制されない状況で毎日続けるのは実は難しいものです。
少しずつ、習慣化していけるとよいでしょう。
引きこもりからもう一歩抜け出したいとき、本人の意思や親のサポートだけでは壁を越えられないことも。
引きこもりは親子だけで解決できるような問題ではないため、家庭内でどうにかしなくてはと抱え込む必要はありません。
スムーズな解決にはさまざまな外からの支援を受けることをおすすめします。
訪問支援などを利用する
家庭内と自室にいることがほとんどだと、家族以外とのコミュニケーション機会はどんどん希薄になってしまいます。
訪問支援を受けることで、他人との関わりを持つきっかけを作れます。
少しずつ人間関係を築きながらコミュニケーション能力と自信を身につけていけるでしょう。
就労支援を受ける
就労支援は、社会復帰にとって大切なサポートです。
働きたいと思っても、引きこもり期間が長いといきなり外で働くのはハードルが高いもの。
場合によっては挫折を味わい、すぐに引きこもり状態に戻ってしまう可能性もあります。
そんな中、自分の適性は何かを分析し、職場体験を通して働くことは、仕事に自信をつける大きな一歩となります。
地元での求人や若年層に特化した就職エージェントなどもあるため、まずは気軽に登録・相談してみるとよいでしょう。
引きこもりを生かした仕事もある!?
「引きこもりだから仕事ができない」と決めつけるのは間違いです。
外出することや、外での対人コミュニケーションを苦手としていても、仕事は在宅でもできます。
在宅ワークは、近年では感染症対策としても注目されており、人と接することなく業務に当たれるという面からも、魅力的な働き方だと言えるでしょう。
また、引きこもりの子どもを支援する側の仕事を担うという選択肢もあります。
自分が引きこもりを経験したからこそできる温かい対応、かけられる言葉があるはずです。
特性を生かした仕事にも興味を向けてみてはどうでしょうか。
引きこもりの子どもへの対応はどうする?
引きこもりは、本人にとってはきっかけがないと抜け出すことができず、親にとっては心配でたまらないものです。
しかし、子どもの社会復帰は学校へ毎日通うこと、無事に就職することだけがゴールではありません。
本人が自分らしく毎日を過ごせることが目標ではないでしょうか。
子どもを心配するあまり、親はつい解決を急いでしまいがちですが、引きこもりからの社会復帰には長い目でのサポートが大切です。
【脱出パターン1】
引きこもり ▶ 外の世界(元いた学校)へ ▶ 少しずつ経験を積む
【脱出パターン2】
引きこもり ▶ 通信制高校で学ぶ・経験を積む ▶ 外の世界へ
引きこもりからまずは学校に行けるようになって、できることを増やし、将来につなげようと考えるのが一般的かもしれません。
しかし、高校であれば「通信制高校」という選択肢もあります。
自宅にいながら学びを深めて自信とし、社会への興味と意欲を膨らませていくという順序でもよいはずです。
通信制高校は毎日通学する必要がなく、オンライン授業と自宅での自習が学習ベースとなります。
必要な単位を修得すれば卒業でき、得られる高校卒業資格は全日制高校や定時制高校と同じです。
人間関係に気を揉むことなく、自分のペースで学べるのが通信制の大きな魅力でしょう。
学校によって特色が異なるため、国語や数学と言った通常の教科だけでなく就職に直結するような専門分野を学べるところもあります。
引きこもり脱出の一歩として、自分に合った通信制高校を探してみるというのも、きっかけ行動のひとつとなるのではないでしょうか。