増加傾向にある不登校ですが、その原因はさまざまです。
わが子が「学校に行きたくない」と言い出したら、どう対処すべきなのか。
今回は、不登校を引き起こしやすい心理状態と、不登校の子供に対する親の対応について解説します。
目次
不登校の現状
文部科学省の調査によると、小学校・中学校・高校における不登校の現状は以下の通りです。
2015年度 | 小学校 | 中学校 | 高校 |
不登校 | 27,583人 | 98,408人 | 49,563人 |
1,000人当たりの不登校人 | 4.2人 | 28.3人 | 14.9人 |
20120年度 | 小学校 | 中学校 | 高校 |
不登校 | 63,350人 | 132,777人 | 43,051人 |
1,000人当たりの不登校人 | 10.0人 | 40.9人 | 13.9人 |
参考:「令和2年度 児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果の概要」.文部科学省.2021-10-13
https://www.mext.go.jp/content/20201015-mext_jidou02-100002753_01.pdf
2015年と2020年を比較すると、この5年間で小学校と中学校では不登校の人数が大きく増えていることがわかります。
高校では多少の減少傾向が見られます。
しかし、欠席日数が少ないために不登校とカウントしていない場合や、高校で長期欠席となる前に中退した生徒を含めると、不登校に相当する人数は実際もっと多いと推測できます。
文部科学省による不登校の定義
「不登校」とはどのような状態を指すのでしょうか。
文部科学省の調査では、以下のように定義されています。
“「不登校児童生徒」とは「何らかの心理的、情緒的、心身的あるいは社会的要因・背景により、登校しないあるいはしたくともできない状況にあるために年間30日以上欠席した者のうち、病気や経済的な理由による者を除いたもの」と定義しています。”
引用:「不登校の現状に関する認識」.文部科学省.
日数として「年間30日以上」と明記されており、単純に12ヶ月で割ると月に3日以上の欠席です。
不登校と聞くと、長期間学校に来ていないと思いがちですが、週の半分以上登校していても不登校に該当するということがわかります。
子供の不登校の原因
不登校は1つのきっかけや特徴だけで起きるのではなく、さまざまな要因が重なった時に起きてしまいます。
決して怠けているせいではなく、本人が学校に通いたいと思っていても、病気による体調不良や、発達障害などにより思うようにできない場合もあるのです。
「○○だから不登校になってしまうのでは」「親が○○だと危険」などと決めつけず、原因となり得ることの全体像を把握しておきましょう。
子供が不登校になる心理とは
不登校の原因を突き止めて解決していくには、子供の心理状態を知っておく必要があります。
何を考えているか、どんな悩みを抱えているかを知り、親が理解を示すことで、対応の仕方もわかってきます。
ここでは、不登校を引き起こしやすい9つの心理状態を見ていきます。
学校全部ではなく部分的に受け付けない
不登校だからといって、学校のすべてが嫌だとは限りません。
- 授業自体は好きだが、クラスの雰囲気が苦手
- 友達は大切だけど、先生とどうしてもうまくやれない
- 部活のためだけに無理矢理通っている
以上のように、学校生活の中のある特定の要因に対して苦痛を感じ、不登校状態に陥ってしまう場合があります。
集団が苦手
集団行動が苦手という子供も少なくありません。
- 好きなことに集中しすぎて、周りが見えなくなる
- 人の多さに圧倒され、集団にいると不安になってしまう
- 集団行動の経験が少なく、どうしたらいいかわからない
- 大人の気を引くためにわざと別のことをする
なぜみんなと同じことをしなくてはならないのか、集団行動する理由や必要性を理解できず、自分のペースで動いてしまいます。
集団行動が必要な理由をかみ砕いて伝えながら、少しずつ大人や子供が集まる場所へ足を運び、集団の中で過ごすことに慣れるとよいでしょう。
学校の授業が合わない
勉強自体は好きだけれど、学校の授業が苦手というケースもあります。
大勢の生徒対1人の先生という講義型の授業に違和感を持っていたり、授業に面白さを全く感じなかったり。その場合は無理に登校しなくても、
塾・家庭教師・予備校などを利用して勉強を進めれば、学力アップは可能です。
クラスに馴染めない
「クラスに馴染む」という言葉は、「みんなと同じである方が受け入れられる」という側面を持っています。
周囲と話が合わなかったり、うまくコミュニケーションがとれなかったりすると、空気が読めないと思われてしまうかもしれないと不安になり、新しい環境では常にプレッシャーを感じていることでしょう。
すぐに仲良くなっていくクラスメイトを目にするたびに焦り、人にどう思われているかが気になってより萎縮してしまう可能性もあります。
その結果、学校に行くこと自体が怖くなり、不登校へとつながってしまいます。
先生と対立してしまう
学校生活において、先生と関わらずに過ごすことはできません。
数学の先生が苦手
▼
数学がある日は憂鬱になる
▼
他のみんなは数学の先生と楽しそうに話していて、理解できない
▼
もう学校に行くこと自体が嫌になった
このような負の連鎖で不登校につながってしまうことがあります。
苦手な先生ができてしまうと、好きだった授業や楽しかった友達との時間までが嫌になってしまう場合があるのです。
自分の意見が言えなくて疲れる
クラスメイトや先生に対して言いたいことがあっても、自分の意見を言うのが怖くて言えずに飲み込んでしまう心理状態です。
「自分の意見を言っても、同意してもらえなかったらどうしよう」という思いが先行したり、友達に不満を言って関係が崩れるのを過度に恐れてしまったりする背景があります。
自信がない
自分に自信がない子供は少なくありません。
理想としている人物像と、まだ若く経験の浅い自分自身とではギャップが大きく、なかなか自信が持てないというケースがあります。
学校では友達や先生を通して、コミュニケーション能力を高めたりさまざまな個性と向き合ったりする能力を養うことができます。
その一方で、自分のコンプレックスを強く感じたり、成績で比較することで自信を失ったりする機会も多くあるものです。
部活や授業での失敗をいつまでも引きずってしまうこともあるでしょう。
一つひとつのショックは小さくても、積み重なると自分を認めてあげられなくなり、不登校へつながってしまう恐れがあります。
起立性調節障害
毎朝決まった時間に起きたいのに、どうしても起きられない、具合が悪くなってしまうという成長過程の病気が「起立性調節障害」です。
中高生の時期に多く、さまざまなきっかけでストレスを感じ、心身のバランスが崩れると発症しやすいといわれています。
個人差はあるものの、数年にわたって症状が続くことがあり、学校に行きたくても朝の体調が悪くて行けないという日々が続くため、結果として不登校になってしまいます。
症状と付き合いながら、生活リズムを乱さないように注意し、子供のストレスを少しでも軽減できるよう家庭でのサポートが求められます。
いじめ
いじめは見えないところで進行し、親や先生に相談できない状態になってしまうことが少なくありません。
近年ではLINEやSNS内でのいじめも増え、把握するのはさらに難しくなっています。
親としては、すぐにヘルプを出してほしいと感じますが、子供なりに「親に心配をかけたくない」という思いもあるものです。
いじめを思い出して話すのは、フラッシュバックになる可能性もあるため、一人で我慢するより話す方がつらい場合もあります。
親が取るべき対応とは
不登校の状態を打開するには、学校に行けない理由・悩みを解消させなくてはなりません。
「子供に今してあげられること」だけでなく、「これから先どうしていくか」についても考えることが大切です。
親として、どう寄り添って悩みを解決できるのか、対応のポイントをご紹介します。
無理に学校に行かせない
学校に行かないと自分が将来困ること、それは本人も当然理解しています。
その上で悩み、答えが出せずに不登校状態に陥っており、心が消耗しているときにまず必要なのは休養です。
「行かないのはダメだから行かせる」という気持ちをグッとこらえ、一時的にでも悩まなくてよい環境を作ってあげることが回復への第一歩となります。
「無理して行かなくても大丈夫」と言葉で伝えることは、子供にとって大きなサポートとなるでしょう。
不登校の子の多くは、学校や勉強から離れたいという思いがあり、家ではゲームをしたり動画を観たりして過ごす時間が多くなります。
毎朝決まった時間に起きて学校に行くというサイクルがなくなるため、生活リズムが乱れがちです。
いずれ学校生活に戻る、あるいは進学することを考えると、昼夜逆転や学力不足は避けておきたいところですが、子供の辛さが落ち着くまでは、温かく見守ることを優先としていきましょう。
落ち着いて考えられるまでに回復したら、少しずつ生活リズムを整えるところから始めていけばよいのです。
承認する言葉をかける
子供は不登校状態となるまでに、1人で懸命に考え、行動し、迷い、苦しんできています。
頑張ってきたこれまでを認め、まずは存分に褒めてあげてください。
その声かけで、「ちゃんと見ていてくれた」「家族は自分の味方でいてくれるんだ」と感じることができます。
親子のコミュニケーションが円滑になるだけでなく、子供自身が今後について前向きに考えるきっかけともなるでしょう。
子供の話を聞く
子供の一番近くで寄り添って話を聞けるのは親です。
まずは、話をじっくり聞いてあげましょう。
一言では言い表せない複雑な思いが子供なりにあるため、いきなりは多くを話してくれないかもしれません。
それでも聞く姿勢を持ち、どんなときも味方であると伝えることで少しずつ思いを聞かせてくれるはずです。
不登校の原因や今後についての難しい話でなくてかまいません。
趣味の話や今日あったことといった他愛のない会話でも、不登校中の子供にとっては大切なコミュニケーションの時間になります。
もし、趣味と呼べるものがないならば、学校に行っていない時間を使って、一緒に新しい分野の体験をしてみるのもいいでしょう。
その中で心がほどけ、引っかかっていた思いを話してくれるきっかけになったり、没頭できるものとの大切な出会いとなったりするかもしれません。
一方的なアドバイスや強い叱責は「誰も自分のことをわかってくれない」と、より一層殻に閉じこもるきっかけとなり、強い反発や自傷行為に及ぶ危険性をもはらんでいます。
待つ立場にも我慢が必要ですが、否定したり問い詰めたりせずに、子供の話を聞く姿勢がとても大切です。
学校に相談する
今すぐ不登校から復帰できなさそうな時は、親が架け橋となって学校に相談するとよいでしょう。
- 自宅で自習を進めるにあたって、授業の進行状況を知りたい
- 進路についての相談(欠席日数や内申書)
- 教室に戻れなくても、別室登校が認められるか
学校のサポート体制と、不登校状態でも可能なこと・不可能なことを確認しておくと、選択肢がはっきりし、この先の目標を立てやすくなります。
同時に、不登校に対応している塾など、学校以外の機関も調べておくとよいでしょう。
別室登校で単位取得を検討する
別室登校とは、教室ではなく保健室などに登校して過ごすことを指します。
不登校の子供の中には、クラスという集団へは入っていけなくても保健室には行けるという子がいます。
保健室で勉強し、テストなども受けることで単位を取得できれば、教室での授業に参加したのと同等の評価を受けられる場合があります。
別室登校が可能かどうかを学校側と相談した上で、子供が希望した場合は登校への大きな一歩となるでしょう。
専門機関に相談する
不登校をサポートしてくれる専門機関には、多くの不登校生徒と親に関わってきた経験とノウハウがあります。
【公的団体】
・子育て相談窓口
・児童相談所
・教育支援センター
・発達障害支援センター
・小児科 など
【民間団体】
・カウンセラー
・フリースクール
・不登校対応の塾や家庭教師 など
話を聞いてもらうことで心が軽くなりますし、症状や特徴によってどのように対処すべきか具体的な解決策を提案してもらえるでしょう。
各市町村の市役所で問い合わせたり、インターネットで検索したりして、居住地域の相談窓口を探すのがおすすめです。
家庭内と学校だけで不登校を解決しようとせず、積極的に専門機関に助けを求めていきましょう。
通信制高校へ転入する
今後の進学・就職を考えると、勉強をした方がよいのは明らかです。
学力アップは独学でも可能ですが、受験や就職試験の際に高校卒業資格が大切になってきます。
不登校で心が消耗してるならば、今の学校に復活する他に、通信制高校へ転入するという選択肢があります。
不安を感じている学校にこだわって居続けるより、新しい学校で心機一転始める方がストレスも少ないはずです。
自分のやりたいこと、興味があることが見つかると、「学校に行きたい」「勉強したい」と意欲を出すきっかけになります。
興味があるものに対して、人は積極性と集中力を発揮することができるもの。
通信制高校では専門的な授業を展開している学校もあるため、勉強を将来の夢や就職に結びつけて進められるチャンスでもあります。
規定回数のスクーリング以外は登校の必要がなく、自分のペースで勉強できる通信制高校は、不登校の解決策の1つではないでしょうか。
通信制高校を探す際は、オープンキャンパスに積極的に参加し、自分の目で学校の雰囲気を確かめることが大切です。
親御さんは自分を責めない思考を持ちましょう
不登校は、親のせいなのでしょうか。
「私のせいで子供が不登校になってしまったのではないか」と自分を責める親も少なくありません。
たしかに親からの虐待などによって不登校となる例はありますが、ほとんどの場合は親が原因ではなく、複合的な要因によって引き起こされるものです。
過度に責任を感じて苦しむ必要はなく、過去よりもこの先のことを前向きに考えていきましょう。
不登校は、どんな子でも経験する可能性があります。
友達が多くても、勉強がよくできても、運動神経がよくても、なんらかの環境変化やストレスによって不登校につながってしまうことがあるのです。
「親のせいだから自分で解決しなくては」「子どもが不登校だと相談するのは恥ずかしい」などと抱え込まず、積極的に専門機関へ相談して親自身も心を軽くしましょう。
定期的なリフレッシュも大切
不登校の子供に寄り添う気持ちは必要ですが、思い詰めて親まで心のバランスが崩れてしまっては、家庭から笑顔が消えてしまいます。
「不登校なのにリフレッシュなんて」とマイナスにばかり考えず、親も趣味や仕事を通して充実した毎日を過ごすのが理想的です。
親が生き生き活動していると子供にも前向きな印象を与えることができるのです。
子供の声に耳を傾けながら、焦らず悲観せず不登校と向き合っていきましょう。
きっと目指すべき次の目標が見つかるはずです。