子どもの成長過程で必ず訪れるのが、母親から離れて幼稚園や学校に通うことです。これまでずっと一緒に過ごしてきたからこそ、不安は親子ともに大きいのではないでしょうか。
子どもにとって、一番近くで守ってくれる存在がいなくて不安なのは当然であり、この分離不安自体は、発達において欠かせないものです。しかし、小学生になっても不安が長く続き、心身に何らかの症状が出てしまう場合があります。
今回は、母子分離不安タイプの不登校について、要因や家族の対処方法を解説します。
目次
母子分離不安タイプとは?
母子分離不安とは、子どもが母親と離れる際に不安を感じることを指します。親から離れて過ごす学校生活に不安あるいは恐怖を感じやすいのが「母子分離不安タイプ」です。
幼少期だけでなく、小学生の年齢でもうまく親との距離感がつかめずに、離れることに強い不安を感じる子どもがいます。この不安によって、時には身体的な症状や、母親がいない状況になると泣いてしまう精神的な症状が出ることも。
さらに悪化すると、学校へ行くことができなくなってしまうのです。
特徴
母子分離不安タイプには次のような特徴が見られます。
- 小学生の低学年に多く見られるが、高学年にも増えている
- 幼稚園・保育園にも登園を渋っていた子が多い
- 人見知りが激しい
- 暗闇を過剰に怖がり、寝付きが悪い
- 母親と離れる、あるいは集団の中に入ることに不安を感じて行動できない
- 母親の関心が自分に向いているかを何度も確認する
- 母親を兄弟と取り合う
- 母親の愛情が得られない悲しみを抱えている
- 母親と一緒なら安心し、登校できることがある
- うまくやれなくて親に見捨てられるのではないかと感じている
- 母親の外出を嫌がる
- 母親を独占したがり、赤ちゃん返りのような行動が見られる
- 同級生の中で劣等感を抱いている場合がある
学校生活では、登校時に強い不安を表すようになり、母親と一緒でないと登校できなくなるといった症状が出ます。
緊張感が強く、学校でも不安定な精神状態が続いたり、逆に無理に元気に振る舞ったりする傾向があります。
また、母子分離不安によってさまざまな身体的症状が出ることもあります。
- 頭痛
- 腹痛
- 食欲不振
- 嘔吐
- めまい
- 息苦しさ
- 夜尿 など
このような母子分離不安が長く続き、身体的あるいは精神的症状が強い場合は「分離不安症」と診断され、専門的な治療が必要となります。
注意点
母親から離れられないのは甘えだと捉え、引き離す例は少なくありません。
しかし、「離れているうちに母親に何かあったらどうしよう」という不安も付きまとうため、離れる訓練だけでは解決策ではないのです。
このタイプの場合は無視したり叱ったりすると、より不登校が長引いてしまう危険性があるため、母と子が一緒にいられる時間を増やした方が事態の好転には効果的です。
母親に甘えるような行動が年齢に合わないものであっても、子どもに合わせて欲求を満たしてあげることで不安が納まりやすい場合があります。
子どもに寄り添おうとすると、どうしても負担は母親に集中してしまいます。そのぶん、父親をはじめとする家族、周囲の大人のサポートが不可欠です。
場合によっては、母親が自分の子育てに自信をなくし、責任を感じて落ち込んでしまうことも考えられます。
どんなにシミュレーションしても、本に書いてある通りにはならないのが子育てです。
家族や祖父母が母親を責めるようなことはせず、母としての毎日の頑張りを積極的に褒めてあげてください。
発達障害が関係している場合もある
母子分離不安の背景に発達障害が関係している場合もあります。
発達障害の傾向があると、対人関係やちょっとした環境の変化などを敏感に捉え、不安を感じやすくなるためです。
発達障害のいくつかの分類の中でも、母子分離不安はASD(自閉症スペクトラム)の子どもに多いと言われています。ASDの対人関係における特徴としては、親がいなくても全く問題ないというタイプの子がいる一方で、親がいないと強い不安に襲われたり親から離れられなかったりする両極端な特性が挙げられます。
母子分離不安が見られるという症状だけで発達障害が確定するわけではありません。
家族や周囲の大人は、子どもに母子分離不安が見られるからといってすぐに発達障害と決めつけないように注意しましょう。
母子分離不安自体は、子どもからの心配ごとの合図です。
原因を取り除けるか、他に特徴や症状がないか、子どもに寄り添い話を聞きながら気にかけてあげてください。
母子分離不安の要因
幼少期ではなく小学生に起こる母子分離不安には、家庭環境や学校でのさまざまな要因が考えられます。
母親と一緒に過ごす時間が少なかった | 共働きなどでこれまで母親と長く過ごす時間が取れていなかった |
不安を感じやすい性格 | 神経質・内向的・完璧主義など |
家庭での問題 | 両親の不仲・ペットや身近な人の病気や死など |
学校での問題 | いじめ・学校での緊張感・担任との相性など |
環境の変化 | 兄弟が生まれて親になかなか甘えられなくなったなど |
小学校に入学して自分でやるべきことが増え、ストレスを感じるようになったことにより、母子分離不安を引き起こすケースも少なくありません。
通常、この状態は長くは続きませんが、ストレスや不安が取り除かれずに長期化した場合、不登校へつながってしまいます。
原因は子どもによって異なるものの、学校内外でのさまざまなきっかけが積み重なっていると考えられます。
子どもが苦しいときには親が助けてくれる、という信頼感が損なわれている場合は、子どもを安心させることを優先するべきです。
母親、家族の対応方法
母子分離不安の子どもに対し、母親や家族はどう対応すべきなのでしょうか。
他の子どもが元気に学校へ行く姿を見て、「自分の育て方が悪かったのではないか」「どうしてうちの子だけできないの?」という思いに駆られることもあるでしょう。
決して自分を責める必要はありません。そして、子どもを責めるような言い方もしないよう注意が必要です。
子どもの様子がいつもと違う、不安そうなときは親が声をかけ、相談しやすい雰囲気を作ります。話をじっくり聞き、抱きしめるなど、できるだけ愛情をかけて関わりを持つようにしましょう。
親子が離ればなれになるシーンでは、子どもよりも親が過剰に不安を感じることがあります。この場合、親の心配そうな言葉や態度から、子どもも不安を感じてとってしまいます。
子どもが前向きに過ごせるよう、親が率先して気持ちを盛り上げていくようにしましょう。
「学校に行きたくない」と言い出した際は、一緒に乗り越えていける方法を考えます。
- 母親と一緒に登校する
- 教室へ行くのが難しければ、別室登校(保健室登校)を試す
- 無理に学校へ行かせずに休ませる
- 家で1人になれる時間が増えてきたら、登校を少しずつ再開してみる
- 学校にいる時間を、ごく短時間から段階的にスタートする
このように、子どもに合わせた対応が可能か学校へ相談してみましょう。
母親と離れられないことを叱責したり、無理矢理登校させるように呼びかけたりすることは、状況を悪化させてしまいます。家庭と学校で対応に違いが出ないよう、情報の共有が理想的です。
母子分離不安タイプは、親を慕っている子が多いです。子どもを認め、良い関係性を保つことで、親の期待に応えようと力を発揮できる強さを持っています。
日頃から同じ目線で向き合い、楽しむ経験を積めば、子どもは親の愛情を感じることができます。その結果、安心感と親への信頼感が生まれ、1人の時間も怖がらずに過ごせるようになります。
母子分離不安が強い状況が1ヶ月以上続くようなときは、スクールカウンセラーや各市町村の子ども家庭支援センターへの相談も考えてみてください。
相談することで解決への糸口を見つけるだけでなく、母親の心の負担も軽減できるはずです。
まとめ
親と離れて1人で過ごすのは、誰でも不安が付きまとうもの。母子分離不安は、子どもの成長過程で起こりうる正常な感情です。年代や不安の程度、その期間によっては不登校につながるケースがあります。母親にべったり甘え、赤ちゃん返りが見られることもありますが、母子分離不安の場合、突き放したり叱りつけるのは逆効果です。
子どもを認めて欲求を満たすことで安心させてあげるのが回復への近道といえるでしょう。母子分離不安の中には、長期化して日常生活に支障をきたし、治療が必要なケースもあります。
母親だけに負担がかかるという側面も持ち合わせているため、家族のサポートに加え、スクールカウンセラーや専門機関へ相談しながらうまく付き合っていくようにしましょう。