いじめとは何かを正しく理解するために
いじめは、子どもたちが学校生活で直面する最も深刻な問題の一つです。しかし、その定義や範囲について正確に理解していないと、適切な対策を講じることが難しくなります。いじめに対する正しい理解は、問題解決の第一歩です。
いじめの基本的な定義
いじめは文部科学省によって明確に定義されています。同省の「いじめ防止対策推進法」では、いじめを以下のように定義しています。
いじめとは
当該児童等に対して、一定の人間関係にある他の児童等が行う心理的又は物理的な影響を与える行為であって、当該行為を受けた児童等が心身の苦痛を感じているもの
この定義において重要なポイントは、「一定の人間関係」と「心身の苦痛」の二点です。いじめは、単発的なトラブルや偶然の出来事ではなく、人間関係の中で繰り返される行為であることが特徴です。また、いじめと認定されるかどうかは、行為の内容だけでなく、それを受けた本人が感じる苦痛の度合いに大きく依存します。
いじめの主な特徴
先述の通り、いじめにはいくつかの特徴があり、それらを正しく理解することでより深く問題の本質に迫ることができます。
繰り返される行為であること
いじめは単発の嫌がらせではなく、継続的に繰り返される行動です。この持続性が、被害者の心身に深刻な影響を与える要因の一つです。たとえば、日常的に無視される、集団でからかわれるなどの行為が継続すると、被害者は孤立感や恐怖心を抱きやすくなります。
加害者と被害者の力関係
いじめには、加害者と被害者の間に力関係の不均衡が存在します。この力関係は、身体的な強さだけでなく、人数の差や心理的な優位性によっても形成されます。たとえば、グループ対個人のような状況では、被害者が自ら反抗することが難しくなるため、いじめがエスカレートしやすくなります。
明確でない行為も含まれる
いじめは必ずしも明確な暴力行為や侮辱だけを指すわけではありません。たとえば、「からかい」や「仲間外れ」といった行為も、被害者が心身の苦痛を感じる場合は、いじめと見なされます。この曖昧さが、いじめ問題を見過ごしやすくする要因となっています。
いじめと似た行為との違い
いじめを正しく理解するためには、他の行為との違いを明確にすることも大切です。ここでは、いじめと混同されやすい例をいくつか挙げて解説します。
偶発的なケンカ
子ども同士のトラブルには、偶発的なケンカも含まれます。ケンカは双方が対等な立場で意見をぶつけ合う一方、いじめは一方的な力関係のもとで行われるため、性質が異なります。また、ケンカが解決されることが多いのに対し、いじめは未解決のまま持続する傾向があります。
からかいや冗談
友人同士の軽いからかいや冗談が、必ずしもいじめに該当するわけではありません。しかし、相手がそれを不快に感じたり、特定の個人を繰り返し対象にしている場合、それは明確ないじめ行為となります。冗談で済ませられるかどうかは、被害者の視点が最も重視されます。
データから見るいじめの現状
日本におけるいじめの現状を把握するためには、統計データも参考になります。文部科学省が発表した「児童生徒の問題行動等調査」によると、いじめの件数は毎年増加傾向にあります。この背景には、いじめを発見しやすくする仕組みの整備が進んだことも一因とされています。
https://www.mext.go.jp/content/20241031-mxt_jidou02-100002753_1_2.pdf
小中高生におけるいじめの割合
調査によれば、いじめが最も多いのは小学生で、次いで中学生、高校生の順となっています。特に小学生のいじめは、身体的な暴力やあからさまな無視など、比較的分かりやすい形で表れることが特徴です。
インターネットいじめの増加
近年では、SNSやチャットアプリを使った「ネットいじめ」が増加しています。この形態のいじめは、学校外で行われることが多く、教師や保護者が気づきにくいという特徴があります。ネットいじめは、拡散性や匿名性が高いため、被害者に与える影響が深刻化しやすいです。
いじめの定義を知ることの重要性
いじめの定義を正しく理解することは、被害者を保護し、加害者を適切に指導するための出発点となります。また、定義を共有することで、教師や保護者、地域社会全体が連携しやすくなります。
きちんとそれがいじめかどうかを知ることで、いじめの兆候に気づきやすくもなります。たとえば、子どもの態度や行動に変化が見られた場合、いじめを疑う一つのきっかけとすることができます。
いじめを正確に捉えることで、対策の実効性も高まります。学校や家庭でいじめを予防し、被害者を守るためには、まずその本質を理解することが必要です。
いじめの影響と深刻な問題
いじめは、表面的には些細に見える行為から重大な暴力まで、その形態や程度が多岐にわたります。
いじめの具体的な形態
いじめは、主に「身体的」「心理的」「社会的」「ネット上」の四つの形態に分類されます。それぞれの具体例を挙げながら、特徴を理解していきます。
身体的ないじめ
身体的いじめは、暴力行為による身体的な痛みを伴うものです。この形態は比較的分かりやすく、教師や保護者が早期に気づくことができる場合もあります。
- 殴る、蹴るなどの暴力
- わざとぶつかる
- 持ち物を壊したり隠したりする
これらの行為は、被害者に直接的な傷害を与えるだけでなく、恐怖心や不安感を植え付ける結果となります。
心理的ないじめ
心理的いじめは、精神的な苦痛を与える行為を指します。これは加害者の行動が表面的に見えにくい場合が多く、被害者が孤立しやすい特徴があります。
- 無視をする
- 悪口を言いふらす
- 嫌がるあだ名で呼び続ける
心理的いじめは、被害者の自己肯定感を大きく損ない、うつ病や不登校などの深刻な問題につながることがあります。
社会的ないじめ
社会的いじめは、被害者を集団の中で孤立させる行為を指します。これは「仲間外れ」や「排除」といった形で行われることが多くあります。
- グループを作り、特定の生徒を除外する
- 行事や遊びに誘わないよう他の生徒に指示する
- その子どもについての噂を流す
このような行為は、被害者に強い孤独感を与え、学校生活そのものが苦痛に感じられる原因となります。
ネット上のいじめ
ネットのいじめは、SNSやチャットを使って行われるいじめです。匿名性や拡散性が高いため、被害が広範囲に及びやすいのが特徴です。
- 写真や個人情報を勝手に共有し、拡散する
- グループチャット等での誹謗中傷
- 匿名で悪意のあるコメントを投稿する
ネットいじめは、24時間被害が続く可能性があり、被害者が逃れる場所を失ってしまうことが大きな問題です。
いじめが被害者に与える影響
いじめを受けた被害者には、身体的な傷害だけでなく、心理的・社会的な深刻な影響が及びます。
心理的な影響
いじめは、被害者の心に大きなダメージを与えます。その結果として、次のような問題が生じることがあります。
- 自己肯定感の低下
- 不安や恐怖感
- うつ病やPTSD
自分には価値がないと思い込むようになってしまったり、学校や人間関係全般への恐怖心が強まることがあります。精神的な苦痛がうつ病などの精神疾患に発展する例も珍しくありません。特に、心理的いじめやネットいじめは、目に見えない形で精神的な負担を積み重ねるため、長期的なトラウマを引き起こす場合があります。
学業への影響
いじめを受けた子どもは、学業成績にも悪影響を受けることが少なくありません。ストレスや不安から集中力が低下し、授業についていけなくなることがあります。
- 不登校
- 成績低下
学校に行くこと自体が精神的苦痛となり、出席日数が減ってしまう、勉強に集中できない状況が続き、成績が落ちるなどの影響は顕著です。
身体的な健康への影響
心理的なストレスは、身体的な健康にも影響を及ぼします。いじめの被害者は、次のような症状を訴えることがあります。
- 頭痛や胃痛
- 睡眠障害
- 食欲不振
ストレスによる身体症状として頭痛や腹痛が現れ、夜眠れなくなったり、食事が喉を通らなくなることがあります。これらの症状が長期化すると、成長や発達にも影響を及ぼす可能性があります。
いじめの社会的影響
いじめ問題は、被害者個人だけでなく、学校や家庭、さらに社会全体にも影響を与えます。
いじめが原因で精神的・身体的に問題を抱えた子どもが成長すると、社会においても適応が難しいと感じる場合があります。
社会的な接触を避けるようになる引きこもりやニート化、学校でのトラウマが、他者と適切に関わるのが難しくなるなどの社会生活に尾を引き、社会全体で労働力の低下や医療費の増加など、経済的な影響も起こり得ます。
いじめに対する学校・家庭で求められる取り組み
いじめを未然に防ぎ、発生した場合に迅速かつ効果的に対応するためには、学校、家庭、そして社会全体での協力が必要です。
学校での取り組み
学校は、いじめ防止の中心的な役割を果たす場です。教師や管理職、生徒自身が協力し、いじめを防止する仕組みを構築することが求められます。
いじめを発見するための体制強化
いじめの早期発見は、被害を最小限に抑えるために重要です。
アンケートなどを実施して生徒全員を対象としたいじめの実態調査を定期的に行い、匿名性を確保して本音を引き出したり、教師が日常的に生徒間の関係を注意深く観察し、兆候を把握することも求められます。
たとえば、孤立している生徒や態度に変化が見られる生徒に目を向け、面談等を通して、生徒が話しやすい環境を整えることも必要です。
当然これらは学校側や先生方も十分に注意して行なっていますが、絶対にいじめを防げるというわけではないのも事実です。
先生や学校を頼ることももちろん大切ですが、任せきりになってしまうことも避ける必要があります。家族や公的機関など頼れる選択肢は全て利用して立ち向かう勇気も大切です。
家庭での取り組み
家庭は、いじめ問題を早期に発見し、子どもの心のケアを行う重要な場です。保護者が積極的に関わることが、いじめの予防と解決に不可欠です。
子どもと話をすること
いじめの被害者・加害者になりやすい子どもの共通点として、家庭内での孤立が挙げられます。保護者が子どもと積極的にコミュニケーションを取ることが重要です。
日頃から学校での出来事について、子どもが話しやすい雰囲気を作ったり、子どもの気持ちを受け止め、否定せずに共感を示すことで信頼関係を深める必要があります。
子どもの変化を見過ごさない
先述の通り、普段のコミュニケーションの中で異変に気づくことができればいいですが、いじめはどうしても隠したいものでもあります。そういった会話の中から変化をかじ取れない場合には、行動や態度に変化が現れることもあるので、見流さないことが大切です。
- 学校に行きたがらない
- 持ち物が壊れている、またはなくなっている
- 食欲不振や睡眠障害を訴える
こうした兆候が見られた場合は、早急に学校や専門機関と連携を図ることが重要です。保護者間の交流を深め、情報を共有することでも、いじめの早期発見や未然防止が可能になります。
ID学園のいじめ防止基本方針
